松本 住宅 売却のヒントを探る
ようやく相対的な独立性を回復するのは、五一年に米財務省とFRBとの間に、「アコード(協定)」が結ばれ、FRBの権限が保証されてからだった。
以降、政府はFRBの決定には介入しないことになっているが、すでに述べたようにFRB議長を任命するのは大統領であり、政権に近い立場のFRB理事を送り込むこともできる。
また、独立性を維持したはずのボルカーの時代にも、FRBの幹部と財務省の高官たちが意見交換を行なう「木曜朝食会」が始まり、いまも続いている。
実に興味深いことに、グリーンスパンというFRB議長は、歴代の議長のなかで政府高官や大統領と会う頻度が、もっとも高かったというデータがある。
レーガン大統領はもとより、ブッシュ(父)大統領にも、クリントン大統領にも、ブッシュ(子)大統領にも、頻繁に会っていたというわけである(ピーター・ハーチャー『検証グリーンスパン神話」アスペクト)。
もちろん、そのこと自体は責められるべきことではない。
単に礼儀正しいだけなのかもしれないからだ。
グリーンスパンの言動を追いかけていくと、どうもそれだけではない疑いが濃厚になるのだ。
米国政府は選挙民の支持を得るために、金利の引き下げを喜ぶ傾向がある。
また、ウォール街も金利引き上げは株価を下落させるので、頑固なタカ派(引き上げ容認派)のFRB理事は嫌われる。
九六年、グリーンスパンは急伸する株価に熱狂する国民に「根拠なき熱狂」という言葉で戒めたことになっている。
もちろん、そのこと自体は事実だが、誰にでもわかるような言い方でいまの株価は異常だといったわけではなかった。
退屈な講演のほんの「付け足し」のように「根拠なき熱狂」と述べただけだった。
この言葉に最初から敏感に反応したのは、ほんの一部の人間たちで、マスコミを通じてグリーンスパンが警告を発したと報道されて始めて、多くの人たちも知ることになった。
まさに「フェド・スピーク」だったわけで、グリーンスパン自身もあまり多くの人たちに、強い反応が生まれることは望んでいなかったらしい。
では、この後、グリーンスパンはFOMCを通じて、金利引き上げを行なっただろうか。
そうではなかったのである。
上げる検討は必要だといいながら、今回は見送ると述べ、さらに次の会議でも同じような煮え切らない態度を繰り返した。
九六年にはまったく手をつけず、翌年になってから○・二五%だけ上げたが、九七年のアジア通貨危機のさいに三回下げた金利を、ITバブルが真っ盛りの九九年六月まで維持したのである。
実は、「根拠なき熱狂」という言葉が報道されると株価がわずかに下がり、そのことでグリーンスパンは損をした投資家だけでなく、政治家たちから批判され、政府筋からも苦言を呈されていた。
どうもグリーンスパンは、こうした批判をかわすなかで、誰もがよろこぶ路線を採るようになったらしい。
それだけではなかった。
「根拠なき熱狂」と発言していた時期に、グリーンスパンは「労働生産性」の伸び率が、現実の好景気から受ける印象とは合わないと思い始め、その算出法を変えるためのプロジェクトを進めていた。
当時の「ニューエコノミー」論というのは、急速なIT(情報技術)の発達で経済の仕組みが効率的になり、そのお陰で労働生産性が高まったという説だった。
労働生産性とは「実質GDP(国内総生産)」を「国民の労働時間の合計」で割った数値を元に算出するもので、グリーンスパン連邦準備制度理事会議長は、1996年、加熱化していた株式市場を懸念し、「根拠なき熱狂」という言葉で警告した。
翌年の3月まで誘導金利を変えなかった。
その伸び率が高くなるということは、経済の仕組みが効率的になり、将来の国民生活が豊かなものになるということを意味する。
グリーンスパンたちが行なったのは、名目GDPから実質GDPを計算するさいに必要な物価の上昇率を、それまでの算出法をやめて、やや低い数値に変えることだった。
もちろん、計算方法を変えたからといって、現実が変わるわけではない。
グリーンスパンは現実を直視するのではなく、計算方法を変える方法を選んだ。
当時、FRBやアメリカ商務省が発表した「労働生産性の伸び率」は、九四年までは一・四%だったが、九五年以降は二・八%に上昇したというものだった。
そのグラフは、九五年から急伸して折れ曲がっていたが、なんのことはない、九四年までは修正した数字の何割かを上乗せし、九五年からは修正分を全部上乗せしただけのことだった。
この折れ曲がったグラフを見て、「やっぱりニューエコノミーは本当だったのだ」と思ったアメリカ人は多かった。
日本でも大学教授だった竹中平蔵氏は、それまでニューエコノミーに懐疑的だったが、このグラフをみてIT革命論者になってしまったほどだ。
これでは、「根拠なき熱狂」を戒めているのではなくて、煽っていたであろう。
当然のことながら、アメリカの経済学者の間でもグリーンスパンの処置は奇妙だと指摘さグリーンスパン前議長は、|Tバブルに沸いた時期に、わざわざ、労働生産性伸び率が高く算出される方式に切り替え、米経済は「構造が変わった」と発言してバブルを煽った。
れた。
日本の経済学者でも「グリーンスパンは『火事だ!』と叫びながら、火を付け回っている」と指摘した人もいた。
そうした発言はグリーンスパン自身も煽った「根拠なき熱狂」の渦中に消えてしまった。
こうした言動が、政府からの圧力によってなされたとか、政府の歓心を買うために行なわれたという証拠は明らかにされていない。
肝心の時に金利の引き上げをしなかったこと、また、「根拠なき熱狂」と言いつつ、同時に「根拠なき熱狂」を煽る行為を行なっていたことは否定できない事実で、「まるで、二人のグリーンスパンがいるようだ」と述べた人もいる。
ちなみに、この労働生産性についての論争は学者の世界では続いたが、バブルが崩壊してからのほうが、数字が伸びたので、IT革命による労働生産性の伸び率は急速に高まったというのが定説になってしまった。
アメリカは「九・二」以降、急速に軍事費を増強して「防衛バブル」といわれる好景気になったが、なかなか雇用が伸びなかったので、見掛け上の労働生産性が急伸するのは当然だった。
GDPがやや伸びて、雇用が減って労働時間の合計が下がれば、労働生産性の見かけの数値だけは高くなるからである。
最近、アメリカの経済は減速しているのに、雇用だけは少しずつ伸びている。
そうすると逆の現象が起こって、労働生産性の伸び率は急速にダウンしてしまった。
二○○二年には年率で四・一%もの伸び率があったのに、二○○六年は二・一%にまで下落している。
「ウェブ2.0」とやらで、インターネット関連企業が繁盛しているように見える。
グリーンスパンは「神のごとき」洞察力があるといわれたが、このニューエコノミー論事件やIT革命騒動を見れば、とても「神のごとき」などとはいえないことがわかる。
それどころかグリーンスパンは、株高に判断を狂わした投資家と同様に、株価バブルの狂乱に完全にはまってしまっていた。
ITバブルで米国民が被った損害は七兆ドルという説もある。
それだけではない。
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